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文科省の「天下り」問題を他山の石として「食糧費不正事件」の再発なきを願う~『秋田よ変われ』より・その5~

今年の1月、文部科学省が組織ぐるみで違法な「天下り」あっせんを続けていたことが明るみとなった。10年ほど前に、公務員の「天下り」は官民の癒着の温床になると批判されたことで、平成20年末に国家公務員法が改正され、現役の職員によるあっせんなどが禁止されていた。ところが文部科学省は、翌年の平成21年から人事課OBを窓口に現職の事務次官らが関与して「省ぐるみ」で天下りをあっせんしていた。同省の中間発表(2月21日)によると新たに17件の「天下り」があったという。根絶したはずの「天下り」が堂々とまかり通っていたことに驚くとともに、かつて秋田県を揺るがしたあの大事件が頭をよぎった。平成7年に始まった、秋田県庁の食糧費不適正支出問題である。渦中にいた県職員の方々には思い出したくない悪夢だろうが、不正はモグラ叩きのように、隠しても隠しても次から次と噴出し、最後は究明に窮した当時の知事が責任を取って辞任するに至った。

知事選で勝利した寺田氏に食糧費不正問題の解明が託された。県職員の1割を投入し約1年かけて調査した結果、平成6、7、8年の3ヶ年で食糧費のほか、カラ雇用、カラ出張など、不適正執行額は総額43億6千万円に上った。これに延滞損害金を加えた約50億円を県職員は7年かけて平成17年に全額返済した。全く身に覚えのない職員も含めて身銭を切った。寺田知事はウラ金作りをしていた庁内の裏組織を解体、二度とこのような事がないように、出金システムも変えた。文部科学省の「天下り」のようなことはないと信じたいが、あれから20年余が過ぎた。あの当時どのようなことが白昼堂々と行われていたか、次世代に伝えておくことも大事なことと思う。


職員500人を投入
 副知事不在の中、加沢総務部長がキャップの食糧費等調査委員会は動き出した。各課から2~3人が調査担当員に任命され、部局ごとに調査班が設けられ、77課局・室と214の地方機関が一斉に調査を開始した。調査に係わる人員は500人に上り、県職員の1割が投入された。調査は平成8年度分から手掛けられ、順次年度を遡ることとなった。調査員は各部署に保管されていた31万9630件の支払い命令の伝票一枚一枚について職員の記憶と照合して調査票に記入していく気の遠くなるような作業に取り組んだ。
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裏金発見
 県は平成8年度公費不適正支出調査の中間報告を8月25日に発表した。不正の総額は2815万円。食糧費と旅費はゼロだったが、新たに加えた調査費目で不適正支出が見つかった。賃金799万円、報償費47万円、一般需用費1796万円、役務費104万円、使用料及び賃借料67万円。
改善策が施行されたにもかかわらず、不適正支出が懲りることなく続いていたのも驚きだったが、調査科目に入っていなかった多額の裏金が見つかったのは衝撃だった。
総額8925万円のほとんどが現金で保管されていた。9月3日までに県立農業短大から277万円の駆け込みの届け出があり、裏金は9200万円にまで膨れ上がった。捻出方法や使途、保管管理、各課間での融通などの経緯は、平成7年度、6年度の調査と密接に関連していることから、それらを待って明らかにしていくことになった。
寺田は今回の裏金を「保有現金」と表現した。即現金化出来る捻出方法は、カラ賃金かカラ出張だった。カラ賃金とは「日々雇用制度」といわれる14日以内の臨時雇用は現場の判断で支出出来ることを悪用した。裏金のもう一つは架空の備品やお土産を買ったことにし、代金を業者に預けておく方法があり、これもやがて発覚する。平成8年度の調査結果を公表した8月25日、寺田は、県正庁に集まった調査担当者約480人に対して「これから始まる平成7年度、6年度の調査は産みの苦しみになるだろうが、これが県民から信頼回復を得る最後のチャンスであり、中途半端な調査は問題を引きずるだけ、健康管理に留意して調査に全力を上げてほしい」と激励した。

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平成7年度の不正は11億円 主役はカラ雇用
 10月27日、県は平成7年度の食糧費等不適正支出調査の中間報告を発表した。調査の対象は平成8年度分の調査と同じく知事部局など10部局4委員会78課局室、213地方機関を対象に行った。寺田は「県民の信頼回復する上で最後の機会であると職員に再三申し上げてきた。決して調査の信憑性を疑われることがないように、注意を喚起しながら進めてきた」と調査の精度に自信を見せた。
不適正支出額は総額11億341万円に急増した。調べた8費目のうち、食糧費は9694万円、「旅費」3億52万円で、昨年の佐々木前知事の調査時より両費目で2億2877万円も増えた。7年度は食糧費問題が発覚、同年11月からは是正措置もとられていただけに、腐敗の根の深さを思い知らされた。
食糧費、旅費以外の費目全てに不適正支出があった。不正の主役は食糧費から賃金に代わった。全体の半分近い5億4028万円がいわゆる「カラ雇用」だった。旅費を加えると8億4000万円が架空支出で現金化され、飲み食いなどに流用されていた。
各部局ごとの不適正支出額は、土木部がトップで4億5000万円、次いで農政部が3億2000万円とずば抜けて高かった。両部合わせると全体の7割を占め、不適正支出の構図の輪郭が浮かんできた。「知事部局の中枢が仕切り、現場が実行する」と寺田が見立てた通りの展開になってきた。引き続き進められている平成6年度の調査では更に額が膨らむことは確実で、前年に約10億円の返還を余儀なくされた幹部職員は再びのしかかって来る「返還の重荷」に不安を募らせた。

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平成6年度は31億円
 12月12日の記者会見で、想像を絶する巨額の不正金を公表した寺田は強いショックを隠し切れなかった。
平成6年度食糧費等不適正支出は、実に総額31億3040万円と平成7年度の3倍近くに跳ね上がった。平成6年度に県が執行した支出命令額は271億4600万円、その1割以上が不正に使われていた。
不適正支出額で最も多かったのは賃金の10億9533万円、次は旅費8億4299万円。「カラ賃金」や「カラ出張」によって引き出された保有金、いわゆる「裏金」は19億3833万円で不摘正支出の62%を占めた。寺田は「想像を超えた金額」と絶句した。
食糧費は6億2637万円、一般需用費3億2290万円、使用料及び賃借料の1億2994万円と、億の台に乗った。
「デタラメ度」の指標となる「支出命令額に占める割合」を見ると、食糧費は53.5%と半分が不適正支出、賃金は34.5%と3分の1が「カラ雇用」、旅費は20.3%が「カラ出張」だった。使途の段然のトップは「職員同士等の会食他」だった。「食糧費」の不適正支出だけでは足りず、カラ雇用などで生み出した裏金を使って、不正総額のほぼ半分、15億1431万円を飲み食いに使っていた。「裏金」は、今回の調査で一般需用費、役務費などからも一部が現金化されていることも分かり、最終報告で公表されることになった。
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議会も3年間に3千万円の飲食他
 寺田は使途を巡って初めて政治絡みに言及した。「悪しき慣習とはいえ、一番の責任は執行部にある。しかし、議会の人方も飲食を共にしている。これは職員同士等の会食の、『等』(の一字)に含まれている。チェック出来なかった議会に対しても残念だったと思う」と、一緒に飲めば当然気づいて当たり前であるはずの議会の責任にも触れた。
「まるっきり職員同士の飲み食いで15億ということではなく、いろんな方々との懇談があったと理解して欲しい」と言う意味を込めての「等」であった。12月定例県議会の総務企画委員会で不適正支出の中に政治家のパーティー券購入や、集会などへの出席費用や様々な書籍の購入など政治絡みの支出もあったと県側は認めている。議員との懇談費用は調査した3年間で3000万円だったと平成10年2月定例県議会で答弁している。
6月から始まった調査は6年度分の調査でひと区切りついた。6,7,8年度を合わせた不適正支出額は中間報告を合算すると42億5000万円に上ったが、最終結果の報告は調査漏れが無いよう再点検し、1カ月かけて市民団体や県民から情報を集めた後とした。
年明けの1月末の最終報告に向け、返還問題が寺田の肩に重くのしかかってきた。返還する額は全額か、一部か、その基準は、返還するのは当事者だけか、それとも県職員全員か。最後に決断するのは知事である寺田である。

土木部と農政部で不正の64%
 2月20日、食糧費等の執行に係わる調査の最終報告が発表された。調査対象の知事部局、企業局、人事と地方労働の2委員会事務局、監査委員事務局及び教育庁と、独自に調査していた議会事務局を含めて発表した。
調査の結果「他の目的に充当された額」42億9359万円に、グレーゾーンとして区分が未定だったタクシー使用料7259万円が「支出実態を確認できなかった額」として不適正支出に加えられ「不適正な執行額」と認定された総額は43億6619万円と驚くほど巨大な金額になった。
年度別の「他の目的に充当された額」は平成6年度31億5380万円、7年度11億1105万円、8年度2873万円。費目別に見ると賃金がトップで全体の38.3%の16億4379万円、次いで旅費が26.8%、11億5086万円、食糧費は17.1%,7億3379万円で、この3費目で全体の82.2%を占めた。このほか一般需用費4億5666万円、使用料及び賃借料1億5878万円、役務費8729万円、報償費5871万円、備品購入費368万円と全ての費目で不正な支出が認められた。
不正支出額が支出命令額に占める割合は食糧費45.2%、賃金20.5%、旅費11.4%と不正が蔓延していたことが改めて明らかにされた。
部局別では、土木部が16億7019万円、農政部10億8285万円と群を抜いて多く、全体の64.1%を占めた。両部で作られた不正な資金が県庁内を循環していた。
不正金の使途は「職員同士等の会食他」がダントツの20億5223万円で全体の47.8%とほぼ半分を占めた。次いで「事務費等への充当」8億7712万円、「調査費・工事費等への充当」4億3565万円、「慶弔費等への充当」4億2122万円と続き、この4費目で88.2%になった。
職員同士の慰労会、送別会、歓迎会、退職者への記念品や餞別、海外旅行への餞別、議会や市町村関係者、商工、農業、金融、報道関係などとの懇談会と称する飲み会、親睦会への助成、結婚式のご祝儀、お葬式の香典、残業時の夜食代や会議の負担金、地域の祭りへのご祝儀もあったりと、ありとあらゆることに使われていた。
現金を包んだお中元、お歳暮もあったというが、これらは職員のメモと記憶を元にしたもので、贈られたとされる相手から一つ一つ聞き取るなどの裏付け調査が出来なかったために確証は取れなかった。内部調査の限界だった。

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裏金は28億円余
 裏金の全貌も明らかになった。平成6~8年度の3年間に捻出された裏金の額は28億2788万円、支出が27億5093万円、6年度当初の保有金と合わせて9199万円が現金で40課所に分散して保有されていた。この他に「カラ購入」などで業者に預けていた裏金4076万円も見つかった。
最終報告では、食糧費等適正執行考査委員会に提示した5項目の判断基準に照らし、集計して積み上げられた「返還を要する額」28億9921万円が提示された。問題は残りの14億6600万円の取り扱いである。
今回の調査を踏まえ改善策が出された。年度末に余った予算を無理やり消化する「決算調整」の根絶、地域とのつながりに必要な経費は新たに「地域交流費」を設け予算計上するなどが決まった。精神論だけではない実務型が取られ、具体的には、賃金は雇用者本人の口座に払うことや、出張は用務などを詳細に記載させたうえで、旅行代金は職員本人への口座に払うこと、公文書の郵送には郵便局の料金後納制度を活用することなど民間会社ばりのきめ細やかな改善であった。

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全額返還を決断
 寺田は「3月27日の部局長会議で意見を集約し、30日に、6月の調査開始の時の出発式みたいに、あの場所に集まってもらって、締めくくりにしようと考えている。27日がヤマ場」と明かした。食糧費問題は最後の大詰めを迎える。
27日の部局長会も結論は出なかった。寺田は「行政は税で賄われている。信頼回復には全額返還しかない。しかし、職員にはこの問題に携わっていない人もたくさんいる。被害者だという意見もある。それも真っ当な意見だと思う。そういう点で意見集約となれば、私が一任を取り付けるしかない」と、自らが責任を取ることを明確にした。 寺田は、土曜日から月曜日の朝まで知事公舎にこもって、思索を重ね、ついに全額返還を決断した。30日朝の部局長会はすぐ調査委員会に切り替わった。寺田は返還額は一部分とも全額ともどちらとも明かさず「俺に任してくれるか」とだけ言った。
11時15分、寺田は県正庁に集まった職員約400人を前に「この問題にピリオドを打つには全額返還の道を選択せざるをえないとの結論にいたった」と切り出した。庁内放送を通じて各地方事務所にも流した。
寺田が朝方まで筆を入れた2800文字の説明文には、結論に至るまでの曲折がしみ込んでいた。
部分返還という道もあった。しかし、それで果して職員が誇りと自信をもって職務に精励出来るか。免責に対する県民の不満。訴訟の場面で職員が苦しい立場に立たされないか。そのことは問題解決をエンドレスにしないか。全額返還の道を選べば職員の生活に重く負担がのしかかる。行きつ戻りつの思考の末、寺田は「納税者である県民と奉仕する立場の職員が意識を一体化させ、文書の書き換えなどを反省しピリオドを打つべき」との結論に達したと説明した。
返還額は膨大でハードルは高かった。職員の不安を緩和するため、「広く、薄く、長く」を返済の基本に置き、全職員で返済し、職員の生活に支障が生じない返還方法を示した。最後に「全額を返還する事が県民の信頼回復の第一歩と確信し、三年間に費やしたエネルギーを県民のために捧げ二度とこのようなことを生じさせないことを誓う」と結んだ。
職員への説明の後の記者会見で「全額返還を決断した今の気持ちは」と問われて「重苦しい感じだ。しかしこのことが解決出来れば、晴れ間を見ることが出来る。希望を持って、頑張って行くにも3月31日までけりをつけたかった」と語った。

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遅延損害金を含めた約50億円の返済
 4月に入り職員返還会が作られ、返還対象となった職員の98%が加入し、職階に応じた10年間リレー方式で返還することになった。
年間の返還額は部長級の42万円から主事・技師級の2万4千円まで11区分に分けられ、給料とボーナスから天引きすることにした。返還額は不適正執行額43億6623万円から、既に前回返還済みの分と回収した裏金など10億9049万円を差し引いた32億7573万円に遅延損害金5億4364万円を加えた38億1938万円となった。

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県生連との和解

 平成12年2月4日「県生活と健康を守る会連合会」(鈴木正和会長・県生連)が佐々木前知事らを相手取り、食糧費などの公金の返還を求めた住民訴訟4件と虚偽文書の公開で受けた損害賠償請求訴訟1件の合わせて5件の訴訟の和解が秋田地裁で成立した。(中略)
県生連が平成7年から5年間に提訴した訴訟は約50件に上る。このうち佐々木前知事時代に絡む訴訟は上告2件と県議会の公文書開示請求訴訟だけを残して終結した。鈴木会長は記者会見で「5年間は辛いことが多かったが、途中で止めなくてよかった。県は批判する団体には冷淡だが、それだけに県が県生連に一定の評価をした意味は大きい」と語っている。寺田知事に対しては「食糧費問題全体に関しては積極的な役割を果たした」と評価した。
寺田は臨時記者会見を開き、県生連に対して「県政の正常化に大きな役割を果たしてくれた。大変粘り強く、努力なさったそのエネルギーには敬服している」謝意を示した。知事に就任して食糧費問題解決に3年を費やした。

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返済終了は平成17年

 返還金は職員互助会が金融機関から借り入れ、出納閉鎖日の平成10年5月29日、一括して立て替え払いした。それから7年経った平成17年6月30日のボーナス支給で返済が終了した。退職時に3年分を一括して返済するなどの職員の協力もあって、返済期間10年の予定が3年早く完済し、県庁の「負の遺産」は漸く清算された。
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食糧費問題は全国市民オンブズマン連絡会議の調査によると、秋田県以外にも25都道府県で発覚したが、知事が辞職したのは秋田県だけだった。秋田県政史上例を見ない一大不祥事であり、県民の信頼を著しく失ったのも事実で、信頼回復に向けて寺田知事は渾身の力を込めて県政に取り組まねばならなかった。
寺田知事はその後、食糧費などの不適正支出で県職員が返還した資金を人材育成に投下した。第一弾が平成11年度に実施した「ふるさと子どもドリーム支援事業」だった。県内全ての小・中学校と特殊教育学校の477校に生徒数に関係なく、1校につき100万円を助成、子供たちの夢の実現に当ててもらった。子供達は計画作りに夢中になり、父兄を巻き込み「一度空から学校を見たかった」とヘリコプターをチャーターしたり、熱気球に乗ったり、オリジナルのミュージカルを上演したり、中には衰退していく故郷の祭りを盛んにするためにお金を使った学校もあった。 この事業は分断されていた学校と地域のつながりを生み出し、保護者だけでなく地域の住民が学校と関わるきっかけを作り、先生と子供たちの心に変化をもたらした。
職員の返還金はこのほかに、少人数学級を進めるための非常勤講師採用の資金にもなった。このことは地方の小規模学校の学力向上の刺激となり「学びのそこじから」につながった。45年前は全国で40番目前後だった秋田県が、平成19年に再開された全国学力テストでは、小学6年生は国語、算数の「知識」「活用」の4科目とも全国1位、中学3年生は国語の「活用」が1位、残りも2位と3位と学力日本一となっていた。
返還にかけた職員の苦労は「生きたお金」となって報われた、と言えよう。

※次回は3月14日に公開いたします。

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